【今冬オススメ!】クリスマスは自担にふられる妄想を☆ミ
お久しぶりです!メリークリスマス!
突然ですが皆さん、自担にフラれる妄想ってしますか?
私はします!!!!!!
めちゃめちゃします!!!!
ですが先日、ポップでハッピーなジャニオタ(JUMP担)とご飯に行った時、一刀両断されました。
「しないよ~~~~!!!幸せな妄想しかしない!!!」
「どうせ叶わないのになんでわざわざ辛い妄想するの!?!?」
「ね~~~!!有岡くんに◯◯してほしい~~♡」
「わかる~~~♡♡」
言われてみればその通りすぎて何も言えないな。と思いつつも圧倒的な壁を感じ震え上がった私は、一般的なジャニオタとダークサイドのジャニオタの境界線のひとつをここに見た気がしました。
一般的なジャニオタって、自担にフラれる妄想とかしないのか……。
というわけで今回は、ポップでハッピーなジャニオタの皆さんをこちら側のダークサイドへとご案内するため、そして道を同じくするダークサイドのジャニオタの皆さんと同じ種類の涙を共有するため、「フラれたい丸山隆平3選」をお送りいたします!!!!
みんなも自担にフラれる妄想、しようぜ!!!!
①花屋店長33歳丸山隆平
私は、しがない女子高生。クラスでも目立たない存在で、友達も多いほうじゃない。平凡などこにでもある毎日を、平凡に過ごしている。
そんな私の生活の、唯一の非平凡。それが、彼だ。
「おー、◯◯ちゃん。今日もおつかれさん。」
通学路を一本折れたところにできた花屋。そのオーナーである、丸山さん。黒縁メガネに長いエプロンと、ゆるく当てたふわふわのパーマが、ひょろりと長い体躯によく映える。
「今日も来てくれてありがとう。どれにする?あ、今日は丁度フリージアが入ったとこやねん。もう春やねえ」
甘い声で優しく紡がれるこっちではあまり耳にしない西の訛りに、頬が熱くなるのを感じる。じゃあそれをください、私はやっとの思いで一言だけ口にした。
去年の冬、祖母が倒れて入院した。その見舞いの花を買いに行ったのが、彼との出会いだった。
祖母が、入院したんです。口下手な私はそれだけ口にして、なけなしの小遣いである2000円を差し出した。そんな私に彼は優しく微笑みかけて、私のために花を選んだ。その男らしい手に、緩んだ目元に、釘付けになった。
「早くおばあさんが元気になりますように。」
その言葉と一緒に手渡された2000円じゃちょっと足りなそうな花束を抱えて、私は頭を下げて店を飛び出した。はやる胸を抑えながら、もう次に会いに行く口実を探していた。
頬が、身体が、熱かった。
恋人ができたことも、男の子を好きになったこともない私でも、それが恋だと分かった。
あの日からずっと、花屋へ通って毎日1本だけ花を買うのが、学校帰りの私の日課になっている。迷惑だろうか、と思いながらも、高校生の少ないお小遣いには、これが精一杯だった。
口下手な私は、やっぱりまともに話しかけることもできていない。毎日笑顔で迎えられて、他愛もない話をされて、上の空で返事をして、それだけだ。知っているのは、彼の名字と、関西のどこかの生まれであることと、火曜と土曜はお休みだということくらい。歳も、下の名前も、血液型も、何も知らない。
けれど彼に片思いをし始めて、いつの間にか1年が経っていた。
部屋に置かれた花瓶は、毎日ちぐはぐに足されては引かれる花でいっぱいだ。
アネモネの花を一輪抜き取って、告白しよう、そう思った。
「おー、◯◯ちゃん、いらっしゃい。今日もおつかれさま。何にする?」
柔和な笑みを見せる丸山さんは、いつものようにとびにり甘い声で言う。早鐘のように鳴り立てる心臓を押さえつけて、やっとの思いで私は言葉を絞り出した。
花束を、贈りたい人がいるんです。
なけなしの2000円を手渡すと、丸山さんは少しだけ驚いた顔をして、それから微笑んだ。
「うん。どんな人に贈るん?」
丸山さんの男らしい手が、ショーケースのガラス戸を開けた。
…男らしくて、でも優しくて、格好良くて、笑った顔がとっても素敵で。お話は面白いけれど、話す声は砂糖菓子みたいに甘くて。…大好きなんです。はじめて、大好きになった人なんです。
丸山さんは、必死で話す私の震える声にひとつひとつ相槌を打ちながら、花を選んだ。
「こんな感じでどうでしょう?」
ピンクのチューリップがあしらわれた、2000円じゃちょっと足りなさそうな、春色の花束。私が頷くと、彼はその男らしい肉厚な手で、花束に淡いピンクのリボンを施した。その不釣り合いな光景に、いつもよりもずっとドキドキした。
「はい、どうぞ」
手渡されたそれを、私は何も言わずに彼の胸へと突き返す。時が、一瞬止まる。
顔を見るのも怖くて、一目散に店を出た。
言った。言ってしまった。伝わった。
不安と恐怖と少しの達成感が、私を満たしていた。
いつもと同じ帰り道。私は、立ち止まっていた。
丸山さんに、どんな顔で会えばいいのか、会ったらどんな言葉を掛けられるのか、想像しただけで震えが止まらなかったからだ。
帰ろう。伝わった、それだけで十分じゃないか。そう思った矢先だった。
「◯◯ちゃん!」
花屋へと続く角を折れるのが怖くて、早足に立ち去ろうとしていた私を呼び止める声がした。丸山さんが、こっちへ駆けて来る。
丸山さんが、私を待ってくれていた。私を探してくれていた。今だけは、私だけの丸山さんが、そこにいた。
「昨日はお花ありがとう。びっくりしたよ。◯◯ちゃん、意外とロマンチストなんやねえ。」
走ったせいで乱れたふわふわの髪を右手で直しながら、彼はいつものようにふにゃりと笑った。
「僕からのお返し。はい」
渡されたのは、綺麗なリボンをかけられた、アネモネの鉢植え。
貴方に恋をしてからめっきり花に詳しくなってしまった私は、もう涙が止まらなかった。
丸山さんは泣きじゃくる私の頭にそっと手を置いて、ポニーテールが崩れないようにそっと撫でてくれた。
「◯◯ちゃん、ありがとね。ごめんね。」
彼のいつもと変わらぬ優しく甘い声は、いつもより少しだけ冷たく私の心に溶けていった。けれど、穏やかな温かい風が吹いているような心地もした。
素知らぬ顔で、アネモネは心地よさげに花を揺らす。
そうだ、私と彼の住むこの街には、もうすぐ春がくるのだ。
②元カレ28歳丸山隆平
彼と初めて会ったのは、大学1年の春のことだった。
大学に入学して、特別したかったこともなかったのだけど、音楽が好きだった私は何の気なしにてきとうな軽音楽サークルに入会した。
新入生歓迎の飲み会の席で、隣の席だったのが彼…丸山くんだった。
進学で京都から上京してきたという彼は、愉快だけどどこか穏やかな西の言葉を話した。ひょうきんで気遣いができる性格なので、いつもサークルの中心にいるように見えた。
初めて会ったときは、笑った時の笑窪がいいな、なんて思った。
そのうち、ひょろりと長い手脚でベースを弾く横顔が素敵だな、とも思うようになった。
夏になって、一緒に行った花火大会の帰りに告白された。初めて会った時から気になっていた、付き合ってほしい。ぎこちない標準語で、真っ赤になった彼は言った。
断る理由もなかった。そうして私と丸山くんは、恋人同士になった。
それから私たちは、恋に溺れた。若かった私は、隆平くんが大好きで大好きでたまらなかった。色んな所に行った。色んなことをふたりでした。初めて口づけされた夏祭りの金魚すくいのことも、一緒に作って失敗したクリスマスケーキの微妙な味も、今でも鮮明に思い出せる。
そして多分、隆平くんも、私のことを同じくらい好きでいてくれたんだと思う。大学と隆平くんの家を行き来するみたいな生活が続いて、お互いに成績はめちゃめちゃだった。けれど、それすらも楽しくて、隆平くんがいればそれでいいやと、真剣にそんなことを思ったりもしたものだ。
それくらいに隆平くんは優しかった。優しすぎたのだ。
4年生になって、就職活動が始まった。
私と隆平くんは、この頃初めて大きな喧嘩をした。うまくいかない就職活動の苛立ちも相まって、要領を得ない隆平くんの物言いにカチンと来た私が、一方的に怒鳴り散らしてしまったのだ。
どうしていつもそうやってはっきりしないの。自分の気持ちをきちんと言ってよ。
顔を真っ赤にして怒鳴る私に、隆平くんはごめんな、ごめん。ほんまに気をつける、なんて泣きそうな声で言った。今思えば分かる。彼のはっきりしない言葉選びも、終着点が定まっていなくて何が言いたいのか分からないような話も、私を傷つけまいとする、行きすぎた優しさが裏目に出てしまっていただけなのだ。
けれどその時の私にそんなことに気付く余裕は無かった。あんなに大好きだった笑窪が、憎らしくてたまらなくなってしまった。
就職活動は私も隆平くんも思ったように捗らなくて、お互いに顔を合わせると喧嘩をしてしまいそうで、自然と私の脚は隆平くんの家から遠のいた。電話もメールもまばらになった。そんな折、説明会で男の人に声を掛けられた。某メガバンクの内定を持っていた彼は、私の相談相手になってくれた。その甲斐あってか、彼の内定先である銀行の一般職として就職が決まった。
愚かな私の心は、もう完全に揺らいでいた。落ち葉を踏みしめながら久々に赴いた隆平くんの家で、別れよう、そう告げた。
隆平くんは泣かなかった。ぐっと唇を噛んで、下がったままの眉で無理矢理笑って、今までありがとう、とだけ口にした。
そして地元の関西で就職が決まっていた彼は、東京を去った。
春、就職した私は新しい彼氏と上手くいかず、どうしてだか隆平くんのことばかり思い出すようになった。自然と彼の向こうに隆平くんを探すようになって、間もなく別れた。自分の愚かさを痛いほどに呪った。あの時隆平くんが噛み締めた唇の向こうに抱えていた言葉を想像して、一人きりの部屋で膝を抱えて泣いた。
それきり連絡を取ることは無かったのだ。
「…◯◯ちゃん、久しぶり」
声を掛けてきたのは、彼の方だった。
サークルの同窓会があった。
久々に会った隆平くんは、見違えるほど魅力的になっていた。いや、私が知っている記憶の中でも、隆平くんは十分素敵だったのだけれど。無造作なパーマが当てられていた長めの髪はすっかり切り揃えられていて、きちんとスーツを身に纏った彼は、すっかり大人になっていた。お酒のせいで少し赤らんだ頬で、ちょっぴりぎこちなさそうに微笑んだ。酔っ払った友人が、かつての恋人同士であった私たちが話しているのを見てあれやこれや騒ぎ立てる。
「なあ、…なんていうか、ちょっと抜けへん?」
真剣なその声に、それまでの酔いが一気に抜けるのを感じた。私はやっとの思いでいいよ、と告げる。旧友たちの騒ぎ声も遠くに感じながら、二人で店の外に出た。近くの公園のベンチに、並んで腰掛ける。
「いやー、久しぶりやね!ずっと話しかけたかってんけど、なんか気まずくてさあ。元気しとった?」
目を合わせないのに、不自然に明るい話し方。気を遣ってくれているのが分かる。聞きたいことも伝えたいことも、山ほどあった。
ねえ、隆平くん。離れてから、私のことを思い出すことはあった?私は毎日あなたのことを考えてたよ。私に別れを告げられたあの日、あなたは何を思ったの?ごめんね。本当にごめんね。
けれど、そんなこと、一方的に別れを切り出した私に言えるわけがない。あまりの緊張で私が黙っていると、不安そうにこちらを覗き込んだ。
「あっ…もしかして、嫌やった…?」
ごめん、俺アホやからそういうの気づけへんくて…だとかなんとか口をモゴモゴさせる隆平くんに、慌てて首を振る。嫌じゃないよ、嬉しかったよ。それを聞いて、隆平くんが安心したようにやっと笑った。あの頃と変わらないところにできた笑窪に、私もふっと頬が緩む。
「◯◯ちゃん、めっちゃ綺麗になったね」
隆平くんは、なんてこと無いみたいに恥ずかしいことを言う。そんなところもあの頃と変わらない。
これは、自惚れてもいいのかな。なんてことを思いながら胸の高鳴りと少しの期待を噛みしめたところで、隆平くんが口を開いた。
「実はこれ、まだ誰にも言ってへんのやけど」
私は前のめりに、彼の言葉を待った。でも、なんてことない顔で、なあに?だなんて口にした。
「…俺、結婚するんや」
その言葉の意味を理解した瞬間、忘れていた夜の喧騒が、一気に戻ってきた。車のクラクションの音、夜の街のざわめき、そんなものが私の耳を侵して、聴覚を奪った。
少しだけ期待したさっきの自分を、殴ってやりたくなった。
時が、止まったように思えた。けれど、それはまたすぐに動き出した。
「だからね、うんと……◯◯ちゃんには式に来てほしいなって思って。や、嫌やったらええんやけど…」
相変わらずの要領を得ない話し方。不安そうに私の目を覗きこむ彼に、私はやっとの思いで笑いかけ、うん、行くよ。そう言った。
「ほんまに!?よかったあ、絶対連絡するから待っとって」
隆平くんは目尻を下げて笑った。その頬に浮かんだ笑窪はもう、私じゃない誰かのもの。
「◯◯ちゃんはどう?今彼氏とかおるん?」
無邪気な笑顔に、少しだけ怒りすら覚えた。もうずっといないの、貴方のことが忘れられないから。そう叫びたい心を押さえつけて、まあね、なんて誤魔化す。
「そうなんやぁ、ちょっと妬けるなあ、なんて」
なんて、なんてずるい人。ううん、悪いのは私。貴方を捨てて、他の人を選んだのは、他でもない私なのだ。そんなことは痛いほどに分かっているけれど。
「マルー!電話鳴ってるよー!☓☓ちゃん、あっ、ちょっ…女の子じゃん!!」
二人の静寂に割って入った、旧友の声。ちょっと、勝手に見んといてよー!!そう叫んで立ち上がった隆平くんは、こちらを振り返る。
「時間くれてありがと。行こ、皆が待ってる。」
隆平くんの柔らかそうなその手が私に差し出されることはなくて。冷えた私の手が、一緒に彼のポケットに吸い込まれることもなくて。
私はその手の温度を知っている。伏せられたその目の睫毛が意外と長いことも、左右の二重の幅が違うことも。
かつては確かにあった過去を思って、涙が出そうになるのをなんとか堪えた。
あれだけ飲んだのに、帰りのコンビニで缶チューハイをいくつか買った。
家までの道のりを、ビニール袋をぶら下げてわんわん泣きながら帰った。
私は馬鹿だ、大馬鹿だ。
あの優しさが、慈しむような微笑みが、私に向けられていた日があったのに。
頭の上で、こんな日に限って月は馬鹿みたいに明るい。
ねえ、隆平くん。もしも、私も貴方と知らない誰かの幸せを祈れるくらい優しい女の子だったら、貴方のくれた優しさに気づけたのかな。
私を大事にしてくれた貴方のことを、もっと大事にできたのかな。
喉まで出かかったお幸せに、の独り言をやっぱり吐き出せなくて、誤魔化すみたいに缶チューハイを煽った。
③ジャニーズ事務所所属アイドル丸山隆平
関ジャニ∞、ねえ。
マネージャーが次に持ってきた仕事は、関西のローカルバラエティ番組への出演オファーだった。
私は、女優をしている。18歳の時某有名オーディションで準グランプリを受賞したことがデビューのきっかけだ。その後ドラマや映画にそれなりの数出演したものの、所謂黄金期と呼ばれる時期は少し前にすぎ、現在はちらほらとやってくる仕事をこなして生活している。そんな生活に不満はない。今年で、29になる。
机を挟んで向かい側に座る、マネージャーの説明を聞く。私は生まれも育ちも東京だから、この番組の名前を聞くのは初めてだった。まあ、ローカル番組だし、気張らずに臨んでいいだろう。私はそんなことを考えつつ、右手に持ったコーヒーのカップを傾けながら台本のページを繰った。
「こんな感じで進むから、一回台本読んで頭に入れておいて。…あ、そういえば」
マネージャーが、立ち上がりつつ思い出したように言う。
「番組の冒頭で、誰がタイプか聞かれるそうだから、一応考えておけって」
コーヒーのおかわりは?そう聞かれて、じゃあお願い、とカップを手渡した。
ふむ。私は関ジャニ∞のメンバーを頭に思い浮かべる。真っ先に浮かんだのは、大倉さんの顔だった。彼とは数年前にドラマで共演したことがあるからだ。話の展開的にも、彼の名前を挙げるのが適当だろう。あとは、バラエティで共演したことがある村上さんと横山さん。そういえば錦戸さんとはまだ一緒にお仕事をしたことがないな。あとは…そういえば、名前も朧気な方もいる気がする。これを機に、きちんと覚えておかなくちゃ。
私はそう思って、マネージャーから受け取った2杯目のコーヒーを啜りながら、台本の出演者のページを開いた。
「本日のゲスト、◯◯さんです。どうぞー!!」
収録当日、私は大きな拍手と歓声で迎えられた。村上さんに促されるまま、その隣に座る。反対隣に、渋谷さん。後ろに、錦戸さん。
トークは他愛もない私の近況報告から始まり、マネージャーに言われていた通りの話になった。
「…毎回女性ゲストの方にお越しいただいた時お聞きしてるんですけど、強いて言うなら関ジャニ∞の中で、誰が一番タイプでしょうか?」
村上さんがどうしてだか申し訳無さそうに問う。私は用意していた通り、大倉さんです、と答えた。以前ドラマで共演させていただいて、とても紳士で優しかったことを覚えているので。これまた用意していた通りの話をすると、大倉さんがドラマの際の話をしていた。関西人なだけあって、主に渋谷さん、村上さん、横山さんがトークを面白おかしく盛り上げてくれた。私は彼らの息のあった会話のテンポにずっと笑いっぱなしで、この辺はやっぱり流石だなあ、だなんて考えていた。
私の生い立ちや趣味についてを中心にトークは展開して、収録は次のコーナーに移った。このコーナーは、関ジャニ∞のメンバーと一緒に私のしたいことを実現させる、というものだ。私は事前に鍋パーティーがしたい、と伝えてあった。
鍋のセットが運ばれてきて、めいめい盛り上がりながら取り皿を受け取る。気を利かせて私に器を手渡してくれたのは、安田さんだった。話に聞いていた通り優しい人なんだなあと思っていると、突然背後から奇声に近い声が上がって、驚いて振り返る。声の主はさっきまで物静かにしていた丸山さんだった。
「出たな!鍋将軍!」
他のメンバーが囃し立てると、彼はにわかにはちょっと信じられないくらいのテンションで真ん中に踊り出て、その場を仕切り始めた。
その後メンバーにいじられつつも手際よく鍋を完成させた丸山さんは、真っ先に私の取り皿に具材をよそってくれた。そして「熱いから気をつけてください」だなんて、さっきまでの元気印のイメージは吹き飛ぶくらい優しい声で言って、微笑んでくれた。
あー、ファンの子は丸山さんのこういう二面性が好きなのかなあ、だなんて考える。
そんなこんなで大いに盛り上がった収録は終盤を迎え、残るはエンディングトークだけとなった。ここでも相変わらず話上手な村上さんが取り仕切る。
「…お付き合いいただきありがとうございました。今日いかがでしたでしょうか?」
とても楽しかったです、みなさん本当に面白くて、たくさん笑わせて頂きました。私はそのような、当り障りのないことを口にする。
「では最後にお聞きしますが、番組冒頭では大倉さんとおっしゃっていただきましたが、もしも今日一緒に過ごして好みのタイプが変わっていたら教えて頂けますか?」
村上さんに言われ、私は自然と口にしていた。
丸山さんです。
思いがけず名前を呼ばれた丸山さんがまた妙な声を上げながら前へ躍り出る。それが面白くて、私は思わず笑ってしまった。
「なんでまた丸山に!?」
村上さんに問われ、お鍋の器を渡すとき、熱いから気をつけてって言ってくださってと言うと、メンバーが揃って丸山さんをいじり出した。うわぁ、こいつ好感度上げようとしとるで、何気回してんねん。丸山さんはみるみる赤くなって、私の手を握って、やっとの思いで
「ありがとうございます…」
とだけ言った。すかさず村上さんが手にしていた進行表で頭を叩いたけれど、私はその様子が可愛らしくてまた笑ってしまった。
収録後、楽屋へ挨拶に向かう。席を外している方もいらっしゃったが、その場にいた丸山さんがわざわざ弁当を食べる手を止めて笑顔で迎えてくれた。
今日はどうもありがとうございました、ご一緒できて嬉しかったです。
私がそう言うと、丸山さんはこちらこそ、と言って握手を求めてきた。
「俺も楽しかったです。ていうか◯◯さん、鍋好きなんですね?」
ええ、大好きです。でも最近食べていないなあ。
「あっ、じゃあよければご飯行きましょうよ!ええ店知ってるんです。そうやなー、大倉も連れてきます!」
勝手に決めんなやー、間髪入れずに大倉さんの声。そのテンポの良さに笑ってしまった。
ええ、ぜひ。楽しみにしてます。
私はそう言って楽屋を後にした。
…そして、丸山さんと大倉さんからマネージャーづてに連絡が入ったのが数日前のこと。あのお誘い、本気だったんだ。とびっくりしたのを覚えている。
私は女優仲間であり先輩の☓☓を誘い、一緒に行くことにした。指定された店までタクシーで向かう。
「えっ!?」
車中で☓☓が声を上げた。
「◯◯ちゃん、今日大倉さん来れなくなったらしいよ。収録伸びちゃったって。」
携帯を見ながら彼女は言った。あちゃー、妙なスリーショットになってしまった。
着いたのは、くねくねと道を入ったところにある隠れ家的な佇まいの店だった。案内された個室で丸山さんが先にいらしていて、待ってくれていた。
「どうもー!お久しぶりです。すいません、大倉のやつ、来られなくなっちゃって」
「いえいえ!マルちゃん、久しぶり!調子いいみたいじゃん!」
☓☓と丸山さんは、以前ドラマで共演したことのある仲だ。
「いやいや!そんなことないですって。まだまだです」
他愛もない話をしながら、めいめい席につく。乾杯ののち運ばれてきた鶏つくねの鍋は、本当に美味しかった。
聞き上手な丸山さんの相槌に、おしゃべりな☓☓はずっと上機嫌だった。彼女の明るい話し声と、どんどん手元に増えていくジョッキグラス。そして私はようやく彼女がとんでもない酒飲みであったことを思い出したのだった。
「ああ~もうダメ。寝るね!」
その言葉を最後に、彼女はテーブルに突っ伏して動かなくなった。
もう、起きなさいよ。私は肩を揺するが、まるで動く気配はない。丸山さんをみやり、ごめんなさい、と言うと、彼は「ええよぉ」と言いながらケラケラ笑った。
「そろそろお開きにしよかあ、◯◯ちゃん、今日は来てくれてありがとう。楽しかった?」
とっても。そう返すと、よかった~、大倉も来れたらよかったんやけどねえ、と口にする。彼も酔っているのだろうか、どこかとろんとした表情だ。
しばしの沈黙。それを打ち破ったのは、私の携帯の着信音だった。
私は着信相手の名前を視界の端で確認し、丸山さんにごめんなさい、ちょっと電話に。と残して店を出た。夜風が、酔いで火照った頬に心地いい。
電話の相手は、付き合って5年になる彼氏だった。仕事終わりだろうか?そんなことを考えつつ電話に出ると、
『◯◯、俺たちもう終わりにしよう。』
突然、思いもよらない言葉が突きつけられた。
何も言えなかった。
結婚を誓い合っていた相手だ。
待ってよ、どうしてなの、何があったの。いくら聞いても、駄目だった。ごめん。もう君と会うつもりはないんだ。それだけ残して、電話は切られた。
私はその場に座り込んだ。悲しいのか、怒っているのか、自分でもわけが分からなくて、それでも不思議と涙はぽろぽろとこぼれた。
どれくらいそうしていただろうか。私を現実に引き戻したのは、
「◯◯ちゃん、どうしたん」
丸山さんの、柔らかな関西弁だった。
彼の心配そうな目にうつる自分の姿に、また涙が出てきた。
「…とりあえず、中入ろか。こんなとこに男と二人でおったらあかん。」
事態に動じず、落ち着き払ったその声に我に返る。私は差し出された丸山さんの手を借りてやっとの思いで立ち上がり、店に戻った。
その後のことは、断片的にしか覚えていない。丸山さんが呼んでくれたであろうタクシーに乗り込み、虚ろなまま家に帰った。ベッドに飛び込み、またわんわん泣いた。そんな私を現実へと引き戻したのは、寝る前に入った一本のメール。
『何があったのか分からないけど、元気出して!おやすみ。』
短い文章の最後に、渾身の変顔をした丸山さんの自撮りが添付されていた。
メールだと関西弁じゃないんだ。そんなことを考えて、少しだけ笑えた。なんて、不器用で、元気印の彼らしい慰め方だろうか。
そして泣き疲れた私は、いつの間にか眠りに落ちたのだった。
翌日、なんとか午前中の仕事をこなした私は、丸山さんにお礼もお詫びもできていないことに気がついた。そういえば、食事代も払っていない。
昨日は、ありがとうございました。とても楽しかったです。ちょっとショックな事があって、迷惑をお掛けしてしまいすみませんでした。お鍋もご馳走になってしまって…本当にごめんなさい。丸山さんの面白い写真を見て、少しだけ元気になれました。
私はそれだけ打って、丸山さんへ送った。返信が来たのは、その日の夜遅くになってからだった。
『いいんだよ~!俺が誘ったんだから。写真、好評で何より。第二弾送ります。ちゃんと笑っていてね』
添付されていたのはまた、すごい顔の丸山さんの写真だった。しかし前回のそれとはちょっと違う。忙しい中わざわざ撮って、送ってくれたのだろうか。本当に優しくて、表情筋が豊かな人だなあ。私はまた笑った。
そして私は気づいた。そういえば、今日、初めて笑った気がする。送られてきた丸山さんの写真を見たときだけ、ふっと沈んだ心が軽くなるのだ。
ありがとうございます。また笑顔になれました。第三弾も待ってます。
半分本気で、半分冗談で送ったつもりだった。しかし翌日の遅くになって、きちんと彼からの返信は来た。
『第三弾。笑ってる?』
今回はまさかの真顔の写真で、思わず吹き出す。本当に優しい人。こうして私と丸山さんの奇妙なメールのやりとりは始まった。
ありがとう。丸ちゃんさんって呼んでもいいですか?
丸ちゃんさんって、なんやねん!丸ちゃんでいいよ!
丸ちゃん。変な顔の写真ください。
ほい!般若風。
毎日重ねる、たった1回のやり取り。それが毎日の救いだった。泣きそうなとき、夜眠るとき、夢で彼に会ってしまったとき。変な顔をした丸山さんの写真を見ることで、少しずつ彼氏だった人の面影が薄くなって、反比例するみたいに、丸山さんの存在が大きくなっていくのを感じていた。
そうして、2ヶ月がたった。
好きになっちゃいけない。そう思いながらも、もう止められなかった。
都合がいいのは、痛いほどにわかっていた。たまたま男に捨てられて、たまたまその場に居合わせた男性に優しくされて、好きに、なってしまうなんて。
でも、それくらいに、丸山さんの優しさは私の心に染み渡った。
大丈夫。食事に誘うだけ。そして、自分の気持ちを確かめるだけ。
―丸ちゃん。電話してもいいですか。
自分に言い聞かせて、震える手で送ったメッセージには、珍しくすぐに既読がついた。
『何かあった?俺ももう寝るところだから、構わないよ。』
私はやっとの思いで発信ボタンを押した。
『もしもし?』
食事に行ったあの日から、実に2ヶ月ぶりに聞くその声に、心臓が跳ねるのを感じる。ああ、彼が紡ぐのはこんなに甘くて優しい声だっただろうか。
ごめんなさい。遅くに。どうしても。丸ちゃんの声が聞きたくて。
そういえば、彼のあだ名を口にしたのは、初めてだった。
『ふうん、俺の声が??じゃあ俺、なんか喋らんとあかんなあ。何の話が聴きたい?』
ふざけたみたいに言う彼。私は一瞬躊躇って、でも気がついた時には、もう夢中で言葉にしていた。
丸ちゃん、彼女はいるんですか。
『……』
しばらく続いた沈黙。ドキドキしながら彼の言葉を待つと、1つ息をついた音のあと、
『おらんよ』
という、少しだけトーンの低い声を聞いた。
聞いたことのない彼の声に、狼狽える。
そうなんですね。やっぱりジャニーズだし、そういうの厳しいんですかね。変なこと聞いて、ごめんなさい。あ、でしたら、よかったら今度食事でも
『◯◯ちゃん』
慌てて話す私を遮る、彼の落ちついた声。
『俺を好きになったらあかん』
ズン、と、心臓が重くなったような感覚を覚えた。
え、と、情けない声が漏れた。
『惚れさせてしまったのなら、ごめん。でも俺には、◯◯ちゃんを苦しませることしかできひんから』
どうして、…どうしてそんなことを言うんですか。私じゃ、資格がないからですか。
『ううん。◯◯ちゃんは、綺麗やし、優しいし、めっちゃ素敵な女性やと思う』
じゃあ、
『でも、俺は、恋人を作る気はないよ。』
欲しいと、思わないんですか。寂しいって、思わないんですか。
『思うよ。俺かて一応男やから。でもね、』
じゃあ、どうして。そんなに自分を苦しませるようなことを言うの。
『…うん、分かった。ごめん。○○さん、もう俺に連絡したらあかん』
そんな、
『俺、いつもこうやねん…ほんまにごめんな。俺が悪かった』
その言葉を最後に、電話は切られた。私は呆然として、ベッドサイドに座ったまま動けなかった。
切れた通話の画面を眺めたまま、涙も出なかった。
それから数日後。
「◯◯、これ、関ジャニ∞の丸山さんのマネージャーがお前宛てに持ってきたんだけど。…お前、接点あったのか?」
マネージャーから手渡されたのは、一通の封筒だった。私ははやる胸を悟られまいと、なんてことない顔でそれを受け取った。
家に帰って封を切ると、そこに入っていたのは、2枚のチケットだった。
「いや~、まさか丸山さんが招待してくれるなんてね!でも、ジャニーズのコンサートなんて初めてだから本当に楽しみ!」
招待されたのは、所謂関係者席というやつである。☓☓は、興奮しつつ私の横の席に座った。いつの間にこしらえたのか、手にはペンライトなんてものまで握られている。
間もなく客席が暗くなり、割れんばかりの歓声を浴びながら彼らが現れた。
そこにあったのは、私の知らない彼らの、…そして、丸山さんの姿だった。
華やかな衣装を身にまとい、歌い、踊る、その姿に、私は釘付けになっていた。
「どうも皆さんこんばんは~!!丸山隆平で~す!!!」
彼の言葉に、何万という女の子から、歓声が上がる。
「来てくれてありがとう。今日は俺ととびっきり愛し合おうね~!」
何万人の「好き」の気持ちを一身に浴びて輝く彼は、私の知らない姿だった。
……いや、きっと、何一つ変わらないのだ。そこにあるのは、私が見てきた彼と、何ら変わらない姿なのだ。
ステージで手を振る丸山さんを眺めながら、私は、唐突に理解した。
―でも、俺は、恋人を作る気はないよ。
―欲しいと、思わないんですか。寂しいって、思わないんですか。
―思うよ。俺かて一応男やから。でもね…
あの日、彼が電話の向こうで飲み込んだ言葉を。
「丸ちゃん、丸ちゃーん!!」
私は、夢中で叫んで思い切り手を振った。けれど彼の目がこちらに向けられることはなかった。
…でもね、俺はアイドルやから。
色とりどりのうちわに書かれた、女の子たちの彼への想い。そのひとつひとつに丁寧に答えようとするその姿。私が彼に向けた想いは、彼にとってそのひとつと何ら変わらないものだったのかも知れない。
彼はきっと、世界中の誰に対しても、私にしたみたいに優しいのだ。
そして、私にしたみたいに、残酷なのだ。
それが、彼の『アイドル』としての流儀。仕事に対する流儀。
自分の人生を捧げてまで、彼はアイドルで居続けるのだ。
何を、特別な立場にいる気になっていたのだろう。
私が好きになった人は、どこまでも優しくて、そして、どこまでも仕事熱心な人だった。
「◯◯、泣いてる!?どうしたの!?泣くほど感動した!?」
私は、急に恥ずかしくなった。
女優という選ばれた職業でいることに、いつの間にか慣れきってしまっていたのかもしれない。
私も、もう一度夢中になりたい。自分の全てを捧げて、女優でありたい。なれるだろうか。あんなふうに。
丸山さんは、忘れかけた芸能人としての私の誇りを、思い出させてくれた。
好きになれせてすらくれなかった。でも、それだけで、有意義な恋だったと思う。
「みんな、愛してるよ~♡」
手の届かない世界で輝く彼を見ながら、私は手のひらを握りしめた。
以上です!!!!!!いかがでしたでしょうか。
なっっっっっっが!!!!!!
悲しいですね!!!!!でも、クリスマスを前にして一人パソコンに向かって1万字もこんなものを書いている私の気持ちを思ったら、大したことないですね!!!!!
ちなみに、本当に自担にふられる妄想をするジャニオタが少ないと思いきれず、Twitterでアンケートを取ってみました。
タイムラインで見かける人たち、みんな大概性癖おかしいからきっと同志もいるだろ〜!と思ったのですが
自担にふられる妄想
— はこ (@znsitmsg) December 22, 2016
うん。自担にふられる妄想をするジャニオタは、やっぱり圧倒的少数派なようでした。まあ、たった1時間で取ったアンケートなので、あまり参考にはならないかも知れませんが…。
35%のみんな、クリスマスは思い思いの失恋ソングを持ち寄って自担変換して号泣する会開こうな。
そして65%のみんなは、どうか我々のように闇に身を落とすことなく、これからも日だまりで幸せに暮らしてください。でも、これだけは言っておきます。しこたまふられた文章を書くと、付き合ってもないのに丸山くんの写真を見ると今しがた別れてきた彼氏を見る彼女のような気持ちになって、元カノ気分を味わえることがわかったのでおすすめです。私は雰囲気に酔ってそっと涙を拭いながらデスクの写真立てを倒すなどしました。
他にも自担にふられる妄想を文章にした方が万が一にもいらっしゃったら、ぜひ私までお知らせください。
元カノからは以上です。
それでは、光のジャニオタのみなさんも、闇のジャニオタのみなさんも、よいお年をお迎えください~~~!!!